ルルーシュがナナリーの耳かきをしてやっていたのは昨日のことだ。たまたまその時にスザクがやってきて、なんだか微妙な表情でそれを見守っていた。
それが今日になってスザクは、先が光って奥まで見えるとか言う『マイ・耳かき』を持ってやってきて、ナナリーではなくルルーシュの耳かきをしてやると言い出した。別にルルーシュはそんなことは自分でできるし、そこつなスザクにされるのはいやだと拒絶したのだけれど、なぜかやる気満々のスザクは全く聞いていなかった。
結局ルルーシュは、草むらの上に座ったスザクの膝に頭を乗せて、彼に耳かきをされる羽目になったのだった。
「じっとしてろよー」
「痛っ、ひっぱるな!」
意気揚々と耳たぶをひっぱられ、ルルーシュはびくんっと肩をふるわせた。
「…あんまりさわるなよ。くすぐったいんだ」
「ちょっとくらいがまんしろよ」
「どうして僕ががまんしてやらなきゃいけないんだ」
スザクの膝に頭を乗せているこの体勢や、首筋にふれてくる手の感触がなんだか気恥ずかしくて、ルルーシュは憮然としてそう言った。けれどスザクは気にした風もなく笑って言うのだ。
「ちゃんと気持ちよくしてやるから!」
スザクの言葉にルルーシュはなんとなく赤くなったけれど、自分でもそのいたたまれない気持ちの理由はよくわからなかった。
「っ…」
スザクが耳もとをのぞき込んでくる気配がして、かさりと耳の中に耳かきが入ってきた。人に耳掃除をしてもらうのなど久しぶりで、予想のつかないその動きに思わず体がこわばる。スザクはルルーシュのそのしぐさが気に入らないようで、叱りつけるように言うのだ。
「力ぬけよ」
「そんなこと言ったって、怖いだろ」
「なんでだよ。痛いことなんてしないって」
「おまえは信用できない……って、そんないきなり奥に…!」
がさがさっと奥まで突っ込まれて恐怖感に暴れだしそうになったけれど、動いたりしたら大変なことになりそうで、どうにかそれをこらえた。けれどスザクは調子に乗って、さらに耳かきを動かしてくる。
「ちょ、そんなに乱暴にかきまわしたら…」
ルルーシュがあわてて言った言葉に、スザクの手がちょっと止まる。それにほっとして、ルルーシュは視線を動かしてスザクを見上げると、咎めるように睨んだ。
「へたくそ、もっとやさしくしろ」
「なんだよ。ちゃんと見ながらやってるぞ。ほら、こことか…」
「そこじゃない。もう少し手前だ」
ごそごそと奥の方をかくスザクに、ルルーシュは眉をひそめて指示をする。へたなことをされるより、そうしたほうが安全そうだ。
「違う、もっと奥…そう、そこ」
「ここ?」
「そう、そっとこすって…」
かさかさと耳の奥の音を聞きながら、ルルーシュはかすれる声で言った。ようやく思ったところに耳かきが届いて、思わず深い息を付く。
「ん…気持ちいい……」
「そ、そう?」
「うん、そこイイ。もっと…」
「もっ、もう終わりだ!あんまいじるとだめだから!」
ルルーシュが思わず息をついてねだると、なぜかスザクは動揺した声でそう言うと、耳かきを抜いて自分の膝の上からルルーシュの頭を押しのけてしまう。
「え、もう終わり?反対側は?」
ようやく気持ちよくなってきたところだったのに止められて、ルルーシュは不満そうにそう言う。スザクはそんなルルーシュを見ようともせずにつっけんどんに行った。
「そっちは自分でしろよ!」
そう言ってスザクはルルーシュを押しのけると、慌てて立ち上がって言い訳するように声を上げる。
「そ、そうだオレ、道場に行かなきゃいけないんだった!」
そう言ってスザクはルルーシュの耳掃除を片方だけしたままで、彼をおいてその場から走り去ってしまう。残されたルルーシュはぽかんとしてそれを見送り、しばらくしてからようやく立ち上がる。
「なんだ、自分がやるって言い出したくせに、へんなやつ…」
ルルーシュの手元にはスザクが置いていった『光る耳かき』が残されたけれど、なぜだか自分でもう片方の耳を掃除する気にはなれなかったのだった。